Hair cuts
(おじいちゃんや、おばあちゃんはあたしを大切にしてくれるけど、でも、あの人たちが一番気にかけているのはお母さんなの。男に捨てられたら生きていけないふしだらな娘のことが心配でたまらないの。誰も、あたしのことを一番に考えてくれない。だからあたしは、いつも寂しい)

愛華は俺と同じだった。一番愛して欲しい相手は、いつも自分以外の人間のことで頭が一杯で、だから、孤独でたまらない。俺たちは飢えていた。

二人きりになった途端、俺たちは深い孤独に突き落とされる。それを実感するのが怖くて、だから必死に抱き合うのだけれど、いくらそうしても満たされず、やがて体力の限界がやってきて体を離す。

抱き合うと、愛華の体から寂しいと聞こえる。きっと俺の体からも同じ声がするんだろう。

俺たちの体は、まるですかすかのスポンジのようだ。いっこうに潤わない。
それでも、俺たちは抱き合った。すかすかのスポンジに、悲しい記憶とか、寂しい気持とか、いらだちとか、全部吸い込んでもらうために。

いつか二人でたどり着けるように。

どこへ?それはわからない。
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