Hair cuts
「親父、風邪引くよ」

いびきをかいている親父の腕を首に絡ませ、無理やり立たせる。ふらつく足にぐっと力をこめ、肩に担ごうとした次の瞬間俺の体は浮いていた。

景色が逆さまになって、ずだんと、床に落ちるまでの短い間、俺はこんなことを考えた。

親父、気の済むまで殴れよ、投げろよ、罵れよ。親父の絶望は俺が、俺の絶望は全て愛華が受け止めてくれるから。

俺はいつか必ず断ち切ってみせる。親父や俺や、愛華が胸に秘めた暗い過去をひっくるめた全を。

ハサミでばっさり切り落とすみたいに、何もかも断ち切ってみせるから…。
 
背中に酷い痛みを感じたあと、俺は意識を失った。
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