本当の俺を愛してくれないか?
でも...

俺は?

「...やってしまった」


小林さんが逃げるように帰ってしまってからしばらくの間、俺は座り込んだまま。


さっきの出来事を思い出すと、耐え切れなくなり頭を抱えてしまう。


何やってんだよ、俺。いくら緊急事態だったとはいえ七歳も年下の部下を自宅に泊めて、ちゃんと説明もせずにさっきあんなことして...。


小林さんが転びそうになって、咄嗟に身体が動いていて。
...なんでちゃんと自覚していなかったんだろう。
小林さんは七歳も年下で、俺の部下で。
そして【大人の女】だってことを。


さっきの小林さんのぬくもりがまだ残っている。
小さい身体だとは思っていたけど、実際に触れてみると本当に華奢で。抱き留めた時に感じた彼女のぬくもりや匂い、そして至近距離で見てしまった赤くなる顔。


「...セクハラで訴えられるだろうか」


朝だと言うのに、落ち込む。


「とりあえず会社に行かないと」


どんなに悲しいことがあったって、落ち込んでいたって仕事は待ってくれない。

どうにか思い腰を上げて会社に行く準備を始めた。


ーーーーーーー

ーーーー


「あれー?最上部長も仕事ですか?」


「あぁ。終わらなくてな」


土曜日の今日。会社は休みなのに俺と同じように休日出勤してたのは部下の小森卓也。大卒入社で今年で三年目の期待のホープ。


「俺もなんですよー。昨日の今日なんで早く家に帰って眠りたいです」


そうだよな。みんなほとんどあれから二次会やら三次会に繰り出したに違いない。
それでもちゃんと仕事優先してここにいる小森。


「ならさっさと終わりにして帰るように。本当なら休日出勤なんて、するものじゃないんだからな」


「へーい」


今時の若者にしては珍しいくらい入社当時から真面目な奴で。
そんな彼に上司として密かに期待していたりもする。リーダーシップの取れる人柄。アイディアも豊富で次から次へと新しい発想が飛び出してきて。
そんな彼に期待しない方がおかしい。


そんなことを考えながらも仕事をこなしていると、急に小森が話し掛けてきた。


「...最上部長。昨日から気になっていたんで聞いてもいいっすか?」


そう言うといきなり席を立ち、わざわざ俺のデスクまで来る小森。
そしてオフィスには俺と小森しかいないと言うのに、誰にも聞こえないようそっと耳打ちしてきた。



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