本当の俺を愛してくれないか?
「...昨日、小林さんをお持ち帰りしちゃったんすか?」


「...は?」


小森の言葉に頭がフリーズしてしまった。


お持ち帰りって...。


「バカ!そんなわけないだろう!」


小森の言葉の意味を理解して、つい声を張り上げてしまった。


「...その慌てよう、本当にお持ち帰りしちゃったんすか?」



「だからさっきから違うと言ってるだろ?小林さんは部下で七歳も年下なんだぞ?」


「えー。男と女の関係に地位も年齢も関係ないじゃないですか。一時の気の迷いってことも、世の中ではよくあることだし」


気の迷い。
小森のその言葉に思わず今朝の出来事を思い出してしまった。


いやいや。今朝のはただ単に事故であって、決してやましい気持ちなんかなかった。


「最上部長ー?聞いてます?俺の話」


「...あぁ、聞いてるよちゃんと」


小森の声にはっと我に返る。


「本当に昨夜は何もなかったって信じていいんですね?」


再度確認するように聞いてくる小森。


「だからさっきからそうだと言っているだろ?いいから仕事に戻れ」


「ちぇー。つまんねぇの。..最上部長、本当に彼女一筋なんですね。人生もっと楽しもうとか思わないんすか?」


「えっ?」


小森の言葉にキーを押す指の動きが止まる。


「人生一度しかないんすよ?ならもっと楽しまなきゃ損ですよ!仕事も遊びも女も!世の中には沢山いるんすから!」


沢山いる、か。
確かに小森の言う通りかもしれない。
世の中には人間で溢れていて、半分は女で。
菜々子以外にも女なんて沢山いる。


「小森、お前の話は一理ある」


「ですよね!だったら最上部長も一人に縛られないでー....」


「だけど俺には無理な話だよ」


小森の言葉を遮り、話を続ける。


「確かに世の中には沢山の女で溢れている。彼女よりいい女は沢山いると思う。...でもな、それでも俺の中では彼女以上にいい女なんていないんだよ。...彼女以外の女、好きになれそうにない」


「最上部長...」


俺のだめなところも、人には見せられないところも。何も言わずありのままの俺を受け入れてくれたのは菜々子だけ。

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