本当の俺を愛してくれないか？

咲花の言葉にじわじわと後悔の渦が押し寄せてくる。


「...もしかして私、ちょっとまずいことしちゃったかな？」


恐る恐る咲花に尋ねる。


「もしかして、ちょっとじゃなくてかなりまずいことしちゃったわよ」


血の気が一気に引いた。


どうしよう。咲花の言う通りになっちゃったら。


「...早退しようかな。体調不良で」


ただでなくても最上部長と顔を合わせるのが怖いって言うのに。


「何言ってるのよ。会社を辞めない限りいつかは顔を合わせなくちゃいけないんだから、とっと行くわよ」


そう言うと咲花はまるで逃げる猫を捕まえるように私の首根っこを引っ張り更衣室を出る。


「やー！咲花！離してよ」


「離したら宏美は逃げるでしょ？」


咲花は華奢なくせして意外に力持ちで。私なんて簡単に引きずられていく。そしてあっという間に辿り着いてしまった我が開発部のオフィス。


「ほーら！宏美のタイムカードも押しちゃったんだから、もう逃げられないわよ？観念しなさい」


「...鬼」


「何？なにか言った？」


そう言うと私の首根っこを掴む手に力を入れる咲花。


「いいえ。何も言ってません」


「よろしい。...あれ？」


そう言うと咲花はやっと私を離してくれて。その声に咲花を見ると、咲花の視線の先には今週の予定がぎっちりと書かれたボード。


「宏美...。部長、今日と明日出張でいないわよ」


「えっ！？」


咲花の言葉に私も慌ててボードを見ると咲花の言う通り、最上部長は今日から二日間出張となっていた。


「先週予定にはなかったのにね。急遽決まったのかな？」


「うん...」


なんだ。じゃあ明日まで最上部長とは会えないんだ。
ショック。


あれほど会いたくないなって思っていたのに、いざ出社して最上部長がいないと寂しい。
好きな人と会えないのは、やっぱり寂しい。


「宏美！呑気に寂しがってる場合じゃないわよ！この先には小森さんにがいるんだからね」


そう言ってみんなの机が並ぶ奥のオフィスを指差す咲花。


そうだった。小森さんがいるんだった...。きっともういるだろう。もしかしたらみんなに私のことを悪く言っているかもしれない。