本当の俺を愛してくれないか?
いくらでも話してやったさ。...菜々子が本当に俺の彼女だったら。

菜々子のいいところも、可愛いところも。どれだけ好きかってことも、嫌になるほど話してやったよ。


...でも俺は振られて。菜々子は地元に帰ってしまったから、なかなか会うことさえ出来ない。
そんな菜々子の話なんて、何一つ出来るわけないだろ?


エレベーターは地下駐車場に辿り着き、疲れきった身体を引きずりながら、自分の車へと向かう。


いもしない彼女という存在を否定しないのは、メリットもあるから。
同じ職場ではない場所に彼女がいれば、色々と仕事にも支障しないし。
...小林さんにも、乙女趣味がばれずにいる。

ただの趣味だ。別に隠したいわけじゃないけど、みんな普通に引くだろ?
大の大人の、しかも男がいい歳して可愛い物が好きで、家事が大得意!...なんて聞いたら。
それこそみんなと仕事がしづらくなる。だから、俺は会社ではクールな菓子開発部部長。それでいいんだ。

...それにきっと、こんな俺を知って引かないのは菜々子ぐらい。
桜子でさえ、ドン引きだったからな。...本当に菜々子だけだったよ。こんな俺を知っても、昔と変わらずに接してくれたのは...。
そんな菜々子に、俺は救われて。
そして好きになった。
...好きになったんだけどな。


ーーーーーーー

ーーーー


「やだ宏美ってば。何そのキャラクター」


「えっ。可愛いでしょ?みんこ」


そう言って小林さんが他の女子社員に見せたのは、みみずがモチーフのキャラクターストラップ。


「どこが可愛いのよ。私には気持ち悪いにしか、見えないんだけど...」


呆れたようにそう話す女子社員。


「えー。なんでみんこの可愛さが分からないかなぁ。こーんなに可愛いのに!」


うん...。その気持ち、すっげぇ分かるわよ。


「可愛いって言ってるのは、宏美くらいだよ」
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