本当の俺を愛してくれないか?
「いいえ!こちらこそ時間取らせてしまってすみませんでした」


歩き出すと後ろから小林さんもついてくる。


「あっ!最上部長待って下さい!」


急に呼び止められ、ふいに振り返ると驚くほど近くに小林さんがいて。
思わず固まってしまった。


そして髪に触れる手。


「...よし、大丈夫です!取れました」


ゆっくりと離れる彼女に不覚にもどきどきしてしまっている。


「さっ!最上部長、急ぎましょう!」


「あっ、あぁ...」


ただ彼女は俺の髪についていたゴミを取ってくれただけなのに。

そんな些細な行動にこんなにも心を乱されてしまった自分が信じられなくて。


つい勤務中だと言うのに、この日から時々小林さんを見つめてしまっていた。


見るたびに彼女の表情は違くて。
子供みたいな笑顔を見せたり、真剣な表情を見せたり、時には大人びた表情を見せたり。

そして以前のように二人っきりになると彼女は俺にそっと聞いてくる。


『最近、彼女さんとはどうですか?』って。

つい最近まではなんとも感じなかったのに驚くほど俺はそう聞かれるたびに罪悪感に襲われる。

彼女に嘘をついていることに。

それがなぜかは自分でも分からなくて。だけど聞かれるたび俺は同じ言葉を彼女に返す。




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