本当の俺を愛してくれないか?
...すみません、ここにも一人います。


デスクで弁当を食べながら、心の中で挙手する。


みんこ...。小林さんも好きなのか。意外だな、なんか。


「あー、部長ってば今日も愛妻弁当っすか?」


そんなことを考えながら弁当を食べていた時、聞こえてきた声。
そこには、俺が自分で作った弁当を覗き込み、羨ましそうに俺を見つめる部下の姿があった。



「...勝手に見るな」


つい恥ずかしくなり、弁当を手でそっと隠す。



「やだー、隠しちゃって。部長ってば意外に可愛いところがあるんですね!」


話を聞きつけてか、いつの間にか俺のデスクの周りには、人だかりが出来ていた。
そしてその中には、小林さんの姿も。


「もー、皆さん。知らないんですかぁ?最上部長は、彼女とすっごい!ラブラブってことを!」


おいおい、何をまたみんなを煽るようなことを...。
とは、言えず。つーか何を言っても、今は何の意味もないだろう。そう思い、無言で残りの弁当を詰め込む。


「いいなぁー、最上部長は。仕事も出来て顔もよくて。おまけに料理の出来る彼女と同棲中なんて」


「あはは!あんたと部長を比べたらだめでしょ」


「そうそう!」


どうにか話の矛先が違う方向へ向いてくれ、一安心。

...別に羨ましがられることなんて、何一つないんだけどな。


仕事が出来るって言われるけど、元々趣味の延長みたいなもので。顔がいいって言うけれど、中身は女より乙女チックな趣味してる野郎で...。

料理が出来るのは自分で、好きだった女と一緒に暮らしていたけど、振られたし、何より菜々子は料理どころか家事一つ何も出来ない奴だったし。
...でも、菜々子。頑張ってたな。あいつに料理を食べてもらいたくて、一生懸命練習してた。


...やべ。思い出したら悲しくなってきた。

未だに俺のデスクの周りで騒いでいる部下達に気付かれないよう席を立ち、給湯室へと向かう。


振られて大分経つというのに、失恋の傷は、なかなか癒えてくれない。


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