本当の俺を愛してくれないか?
『だからそんな呆れたりしないから。...ただもう少し飲む量は押さえた方がいいと思うけど、な?』


あの時の最上部長の言葉や表情、仕草。全てが鮮明に記憶に残っていて。好きの気持ちを加速させる。


あの日からビールを飲まないようにしている。


「部長のなにがそこまでいいのかねぇ。私には理解できない」


「別に理解して貰わなくてもいいもん!...私だけが分かっていればいいの」


そうよ。最上部長の素敵なところは私だけが分かっていればいいの。


「だーかーらー!金忘れちまったの!わりぃんだけど来てくんない?」


「いたっ」


「ちょっと宏美、大丈夫?」


「うん...なんとか」


隣の席の人、さっきから木の壁をぐいぐい押してくるから私の座るスペースがどんどん狭くなってきちゃってる。


「さすがに言おうか?」


身を乗り出し、そっと耳打ちしてくる咲花。


「本当に大丈夫。...それに顔は見えないけど、柄が悪そうな人だし」


「...確かに」


どうやら一人で飲んでいるみたいだけど、店員さんに対する態度や言葉遣いを見たり聞いたりしていると、どうも一般人とは思えない。


「なんかあったら嫌だし、本当気にしないで」


「うん...。あっ、ちょっとごめん!」


電話があり咲花はスマホを持って席を立つ。


そんな咲花を笑顔で見送り、そして一人になるとつい漏れてしまう溜め息。



< 52 / 86 >

この作品をシェア

pagetop