本当の俺を愛してくれないか?
珈琲を注ぎ入れ、ブラックのまま一口含むと、苦味が口一杯に広がる。


...それでもって、いまだに振られた女に未練たらたら。
どこをどう見たら、いい男なんだ?
少なくとも、俺が女だったら絶対こんな男、好きになったりしない。


「...フッ、自分で言ってりゃ世話なし、だな」


自分自身を嘲笑うように、また苦い珈琲を口に含む。


「なーに一人で黄昏てるんですか?」


「...ッブ!!」


「わっ!部長、大丈夫ですか!?」


「あっ、あぁ...」


誰もいないはずの給湯室に、突然聞こえてきた自分以外の声。
それはさっきまで、俺のデスクでみんなと騒いでいた小林さんで...。
つーかなんで俺がここにいるって分かったんだ?
誰にも見つからないよう逃げてきたって言うのに...。

驚きのあまり吹きこぼしてしまった珈琲。ハンカチで口元を拭いていると感じる視線。


「...何?小林さん」


勿論その視線の主は、小林さんなわけで...。


なるべく視線を合わせないよう聞くと、すぐに言葉が返ってきた。


「...最上部長が、珈琲をブラックで飲むなんて珍しいですね。いつもは必ずこれでもか!ってくらいに、砂糖とミルクをたっぷり入れているのに...」


「えっ?」


なぜ知っている?そう聞こうとしたが、答えはすぐに返ってきた。


「あっ、部長今、なんでそんなことを知ってるんだ?って思ったでしょ?」


「えっ、いや...」


おいおい、何狼狽えてんだよ、俺。
いつものクールな最上部長はどうした。


「答えは簡単でーす!私、皆さんを見るのが趣味なんで」


「...は?」


趣味?


俺とは違い、にこにこ顔の小林さん。


「はい!まぁ、ぶっちゃけ人間ウォッチングって言うんですかね?とにかく人の小さな行動とか見るのが、大好きなんですよ」


大好きなんですよ...って。
そんなこと、堂々と宣言されても、俺は何て返したらいいんだ?


言葉に困っていると、そんな俺の心情はお見通しと言わんばかりに、小林さんは笑顔のまま、言葉を続ける。


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