本当の俺を愛してくれないか?
「あっ、因みにやばいことは何もしてませんので、ご心配なく。...部長、無理しちゃダメですよ?」


「えっ...?」


無理?


一瞬、彼女の言葉にどきっとしてしまった。俺の気持ちが見透かされているような気がして...。


だけど、それは違ったようで...。
彼女は俺が手にしていた珈琲の入ったコップを指差した。



「珈琲です!普段は甘いのしか飲めないんですから、ブラックなんて無理しすぎです!珈琲に失礼ですよ!?」


そう言う彼女は、まるで子供を叱るように俺に言う。


「珈琲だけじゃないですけど、食べ物はきっとその人に、一番美味しい!って感じてもらいながら食べられるのが、幸せだと思うんです。だから部長、珈琲に失礼ですよ」


「......」


彼女の言葉はとても衝撃的で、言葉を失ってしまうほど、インパクトがあるものだった。


「...部長?ちゃんと聞いてます?」


「あっ、あぁ...」


小林さんの言葉に、我に返る。


視線を合わせると、小林さんは満足そうに笑った。


「じゃあ次からは絶対に珈琲に失礼なことしないで下さいよ?」


「...あぁ、分かったよ」


二回目だと、インパクトは薄れるもので、つい笑ってしまった。

そんな自分に気付かれたくなくて、直ぐ様彼女に背を向け、使ったコップを洗う。


珈琲に失礼、か。
...確かにそうだな。


蛇口を捻り、水を止める。振り返るとなぜかまだ彼女はその場にいた。

驚きつつも、伝える。


「...次からは、珈琲に失礼のないよう、砂糖とミルクを入れるよ」


そう伝えると、彼女は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐさっきの笑顔に戻る。


「分かって頂ければいいです」


そんな彼女につられて、いつの間にか笑ってしまった。


不思議な感覚だった。ついさっきまで菜々子のことを思い出しては、女々しくなっていたというのに、今は笑ってるんだから。
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