本当の俺を愛してくれないか?
「部長!おめでとうございます!」


「ありがとう」


「さすがは部長です!俺、開発部に配属されて、本当に良かったっす!」


「..ありがとう」


代わる代わる俺の元に来ては、泣いたり笑ったり。お酌してくれたり。

入社して何年も経つけど、こんな時ばかりは仕事を続けてきて良かったって、何度も思うよ。


「...本当にありがとうな。だけどここまでヒットしたのは、俺だけの力だけじゃないから。...みんなそれぞれの仕事を、ちゃんとしてくれているおかげだと思ってる。...いつもありがとうな」


「部長...」


開発は一人では出来ない。みんなでアイディアを出し合って、意見を言い合って。
元は俺が考えたもの。だけど、それを形にして商品として世に送り出せたのは、俺一人だけの力じゃないってわかってるから...。



「うぉー!部長!一生ついていきます!!」


「俺も!!」


「あっ、おい、お前らっ!」


酔っている部下が、いきなり抱きついてきた。


そんな俺達を見て、周りはみんな笑っている。
そんな光景を見てると、つい俺まで嬉しくなって。
ここで働けていることに、誇りが持てる。


「ほーら、いい加減離れろ」


緩みそうになる顔を必死に押さえ、抱きついていた部下達を引き離す。


「つれないなぁ、部長は」


「そこが格好いいんすけどね」


「...言っとけ」


一度作り上げてしまった『最上部長』という人物像を、そう簡単には壊せない。
...素の俺だったら、みんなとわいわい騒いでふざけ合って、喜び合って...。そうしていたかもしれない。だけど、『最上部長』でいる限り、俺はみんなに植え付けてしまった人物像を崩すわけにはいかないんだ。


「ぶっ長~飲んれますかぁ?」


「こっ、小林、さん?」


宴も終盤に差し掛かり、そろそろお金を置いて帰ろうとした時、


「あっれぇ?部長、全然飲んれないじゃないれすかぁ」


酒の臭いをプンプンさせて隣に座ると、持っていたビールを酌する小林さん。
その姿は普段の小林さんからは全く想像できない姿で。


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