セーブポイント
「なあ」
私はそばにいる部下に尋ねる。
「私の人生は、幸せだったのだろうか」

部下は答えて言う。
「今さら、何をおっしゃるのです。あなたはこの国のトップまで上り詰めたお方ではないですか」
「しかし」

「あなたの決断力は、国民のだれからみてもすばらしいものだった」

他の部下も言う。
「断固たる決断力で経済を再生させ、国民の英雄となった」
「危険をかえりみず他国との、交渉に堂々とした態度で臨んだ」
「断固とした勇気をもって、不正をあばき悪をくじいた」

部下が映像を流して言う。
「見てください。国民がみな、広場に集まってあなたの病気の回復を、願っているのです」

窓の外を見ると、私にも涙を流す国民の姿が見えた。

「私だって何度もやりなおしたい時はあったよ」

セーブしてからまもなく、戦争がおこった。他の国どうしの戦争のとばっちりだった。
逃げても無駄だった。街どころか、国全体が焼かれ、すべては失われた。
最愛の人とはぐれ、次の日彼女を見つけた時には、もうすでにがれきの下で・・・
私は絶望した。この世の中のすべてがどうでもよかった。

すぐに「セーブポイントまでもどる」と言いかけた。
しかし、私はおじけづいてやめた。
やりなおせば、必ず悲劇をくりかえすことになる・・・

それからの私は、がむしゃらに働いた。この国だろうが、よその国だろうが対象など何でも良かった。
彼女に見てもらえなくとも、彼女を奪ったものをなくそうとした。
彼女が心を痛めていたものすべてを、この世からなくすために生きた。
貧しさが問題なのであれば貧しさをなくした。他国に戦争があれば飛んでいって仲裁をした。

もし間違えて死ぬのなら、それで本望だ。
私に優柔不断などという言葉は存在しなかった。
誰もが迷うことでも、思い切り良く決めることができた。
それが国民の支持につながり、すべてうまくいった。

そして私は今、死の床にいる。

「私は、褒めてもらえるのだろうか」私はつぶやいた。
「もちろんです」部下は言った。
「国民はあなたの事を褒め称えてやみません。あなたが亡くなったあとには、石碑がたち、数百年のあいだ語り継がれるでしょう」

「いや、違うのだ」

違うのだ。私は、たったひとりに認めてもらえさえすれば。
あぁ、意識が遠のく。私は、たしかめなければならない。
いつもあなたが、そばにいたのだ。いなくなってすら。あなたがいたから、ここまでやってこれた。
あの日。あのなつかしい場所へ。帰るのだ。

私は最後の息を振り絞り、言った。

「セーブポイントまでもどる」

私の意識は白い光につつまれ、何も見えなくなった。
< 3 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop