徒花


帰る道中、コウは一言も話さず、険しい顔をしたままだった。


帰宅してもなお、コウはソファで悔しそうに顔をうつむかせたまま。

どれくらいが経った頃か、コウはやっと顔を上げた。



「親父には二度と会わない。あんな家にももう二度と帰らない」

「……え?」

「マンションも返して、金を受け取るのもやめる。そんで俺は、働いて、マリアを養っていく」

「コウ、ちょっと落ち着いて!」


でも、コウは決意を固めているみたいな顔。



「どうせハタチ越えてんだから、結婚すんのに親の承諾もクソもねぇし、向こうがその気なら、こっちはこっちで勝手にすればいい」

「………」

「俺には無理だって? ふざけやがって、あの野郎。ガキ扱いしてんじゃねぇっつーんだよ、クソが」


コウは頭ごなしに反対されて、意固地になっているだけだけだ。

けれど、私は、なだめるようなことすら言えなかった。


私にとってもそれは、ショックな出来事だったから。


簡単に認めてもらえるとは思っていなかったけれど、でも話せば少しくらいはわかってもらえると、そしたらいつかは円満になるのではと、思っていたのに。

なのに、私はあの場で、一言喋ることさえ許されなかったのだ。



コウは泣きそうな私の肩を引き寄せた。



「ごめんな。お前は悪くねぇよ。すべては俺が原因だ」

「………」

「俺がもっとちゃんとしてれば、お前にそんな顔させることなかったのに」


こんな時でも、コウは私の気持ちを思い遣ってくれる。


きっと、コウの方がずっと傷ついてるはずなのに。

なのにコウは、優しさをくれる。



「大丈夫だよ。私の気持ちは変わらない。私はコウのこと愛してるよ」

「マリア……」
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