徒花
私は顔を上げた。



「でも、私やっぱり、反対されたままなんて嫌だよ」

「何言ってんだよ。あんなやつ、話すだけ無駄だ」

「無駄だって決めつけたら、ずっとこのままじゃない。結婚なんていつでもできるんだよ。私は待ちたい。コウを産んでくれた人に嫌われたままよりは、時間をかけてでも許してもらいたいの」


コウはひどく戸惑った顔をする。

だけど、私はさらに言った。



「私も働くよ。それで、コウもちゃんと働いて、そういう姿を見せればお父さんの気持ちも変わると思うの。それからでもいいじゃない」

「けど……」

「お父さんは、きっと、コウを心配したからああ言っただけだよ。息子がいきなり結婚するだなんて、許さないのが普通だし。私はそう思いたい」


なんて、自分に言い聞かせているだけなのかもしれないけれど。

でも、望みを捨てるべきじゃないから。


コウは少しの間を置き、頷いた。



「わかった。ふたりで頑張ろう」


きっと、大変なことは多いと思う。

それでも、私たちは、ふたりでならどうにかなると思っていたから。



「じゃあ、まずは職探しからだな」

「何かアテでもあるの?」

「ないこともないけど。それより俺、宇宙飛行士になりてぇの」

「無理、無理」

「『夢は大きく』って、お前が言ったんだろ?」

「コウ、英語喋れるの? 宇宙に行ったら煙草吸えないよ? まず、勉強と禁煙から始めなきゃじゃん。大丈夫なの?」

「うわー。それはダメだ。変更しよう。じゃあ、日本の大統領だな」

「日本に大統領なんかいないし。っていうか、真面目に考えてよ」


ふざけているのか、本気なのか。

私は呆れて肩をすくめた。

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