徒花


沙希から電話が掛かってきた。

平日の昼間にふたりでカフェに来るなんて、いつ以来だろうかと思った。



「何か最近、クラブでしか会ってなかったからさぁ。たまにはゆっくり話したいなぁ、と思って」


コーヒーの匂いが立ち込める店内。

窓からさんさんと陽が射して、流行りの音楽がほどよく溶ける。



「あたしさぁ、マリアを街でよく見かけるんだよ」

「マジ? 声掛けてよ」

「いや、だってあんた、いっつも例のカレシくんと一緒じゃん。悪いかなぁ、と思ってさ」

「あぁ、そっか」

「ラッブラブって感じだったね」


私は苦笑いしか返せない。

沙希はコーヒーにミルクを入れてスプーンで混ぜながら、



「あたしね、今回も、マリアはてっちゃんとの関係を断ちたくて、誰でもいいから付き合ってるんだと思ってたの」

「ははっ」

「けど、ふたりが一緒にいる姿見て、そうじゃないんだな、って。ほんとにあの人のこと好きそうだったから」

「うん」

「だからさ、あたしも親友として、影ながら応援しようと決めたわけですよ」

「ありがと。嬉しい」


沙希は前のめりに聞いてきた。



「もう本当に、てっちゃんとは戻るつもりはないんだね?」

「当然でしょ。戻るも何も、私とコウが別れるなんてこと、ありえないから」


胸を張って言った。

沙希は目を丸くして、



「すごい自信」

「羨ましいでしょ」

「いや、恨めしい。カレシいないあたしには、うざい話よ」
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