徒花


部屋に戻るなり、コウは私を押し倒した。



「やっ」


最近のコウは、どうにもならない苛立ちを、私にぶつける。

暴力でじゃなく、セックスで。


でも、それももう限界だった。



「なぁ、俺のこと好きなんだろ?」

「嫌だって言ってるじゃん!」


渾身の力で、覆い被さるコウの体を押し退ける。

コウはさすがに驚いたように目を丸くした。



「もうこんなの嫌なの! コウが喧嘩するところだって見たくない!」

「………」

「私たちはこんなことをしてる場合じゃないよね? 結婚して、幸せになるんじゃなかったの?」


コウはうな垂れるように顔を覆う。



「……ごめん」


泣きそうな声だった。


きっと、コウだってもがいてるんだと思う。

それでも、一歩を踏み出さなきゃ、私たちは前には進めない。



「俺、ダメだな。何か、めちゃくちゃだもん」


コウは吐き出すように言う。



「あれから、マジでクレジットカードも止められて。自分でそう望んでたはずなのに、なのにいざ現実になると、どうしていいのかわかんなくて」

「………」

「俺さぁ、ほんと今まで、親父の力で生きてたんだなぁ、って身を持って知らされた」
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