徒花
おばあちゃんのおかげで生きている私は、コウに偉そうなことは言えない。

だから代わりに、コウの頭を撫でてあげた。



「ねぇ、ご飯食べてないからお腹空いてない? 私、何か作るよ」


顔を上げたコウと目が合った。

コウは消え入りそうな声で「煮物」とだけ言う。



「煮物、食いたい。あと、塩サバも。豆腐の味噌汁もいいな」

「うん」


コウは私を抱き締めた。

今度は、壊れものを扱うように、優しく。



「ごめんな、マジで。俺、頑張るから」

「うん」

「俺にはもうマリアだけだもん。だから、捨てられないようにしなきゃじゃん?」


冗談混じりに、いたずらに言って、コウは私にキスをした。

でも、このままではまた襲われそうなので、私はするりとその腕から逃れ、



「あ、そうだ。さっきダボくんから聞いたけど、カイくん、地元に戻ってるんだってね」

「らしいな。俺よく知らねぇけど。まぁ、そのうち戻ってくるんじゃね?」

「カイくんって、いっつもそんな感じなの?」

「『いっつも』ってほどじゃねぇけど、たまにな。年に一度くらいは、ふらっといなくなる。ひとり旅してんだって」

「ふうん。変な人」

「何? あいつのこと気になる?」

「まさか」


なのに、コウは私をじっと見ていた。

その目を少し怖いと思った。



「どうしたの?」

「いや、いい。何でもない。多分、俺の思い過ごしだろうから」


私はよくわからずに首をかしげた。

が、お腹が空いた方が先なので、私は気にせずキッチンに向かった。

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