徒花
そしてそれは、3日後のこと。
帰宅したコウは唐突に言った。
「俺、働くから」
「え?」
「仕事すんの。マジで。働くとこも決めた」
さすがの私も目を丸くした。
「ちょっと、詳しく説明してよ」
「知り合いの人の会社なんだけど。機械部品とか作ってる工場な。明日から」
「明日から?!」
「おー。朝7時には出ねぇとだ」
「マジで?」
「マジで、マジで」
ほんとに大丈夫なんだろうか。
私は不安と心配でそわそわした。
コウはそんな私を見透かしたように、「大丈夫だっつーの」と言いながら、
「いつまでも貯金を食い潰せるわけもねぇじゃん? それにさ、結婚するんなら、働くのが当然だし。嫁を養うのは男の義務だしな」
「コウ……」
「で、親父を見返してやりてぇの」
簡単に言うコウ。
それでもまだ、私は半信半疑だった。
「ねぇ、働くってことは、すぐに嫌だから辞めますってわけにはいかないんだよ? 喧嘩もしちゃダメだし、大好きなお酒も控えなきゃなんだよ?」
「うるせぇなぁ。そんなことわかってるってんだよ。お前はオカンか」
「でも、でも!」
「だーかーら、俺はそんな安直に決めたわけじゃなくて、本気なんだよ。いい加減、信じろ」
コウが怒り出したので、私もそれ以上は言えなかった。
もちろん心配が消えたわけではないけれど。