徒花
翌朝、6時。
「コウ、起きて。仕事行くんでしょ」
朝が苦手だといつも豪語しているコウを揺すり起こす。
でもコウは、ほんとに『本気』なのか、文句ひとつ言わずにむくっと起き上がった。
「おはよう。ご飯できてるよ」
「え? マジで?」
「さすがの私だって、朝ご飯も食べさせないで送り出すことはできないでしょ。ほら、早く。準備もしなきゃでしょ」
リビングへと、コウを引っ張った。
「あと、これ、お弁当も作ったんだ」
「マリア……」
寝起きで髪の毛が跳ねているコウに抱き締められた。
5時起きで作った甲斐があるというものだ。
「すげぇ好き」
「そんなのいいから、時間なくなるよ」
「やばい。今、無性にヤリたい」
「馬鹿。初日から遅刻したらどうすんのよ。『本気』で働くって言ったんでしょ」
「ちょっとだけ」
「ダメだってば。そういうこと言うなら、二度としないからね」
「それきつい。働く気なくなった。どうしてくれんの」
「知らないわよ」
コウは不貞腐れながら体を離す。
「いや、でも、マジで嬉しかった。サンキューな」
「その代わり、ちゃんと頑張るんだよ」
「だからお前はオカンかっつーの」
まるで絵に描いたような新婚夫婦みたいだった。
そんな他愛もないだけのことが、私には嬉しかった。