徒花
コウが仕事を始めて2週間が過ぎた。
コウは1日も休むことなく毎日ちゃんと仕事に行っている。
「いやぁ、でもまさか、あのコウがねぇ」
先ほど、街で偶然ダボくんと会ったので、ふたりで近くのカフェに入った。
席に着くなり、ダボくんは感嘆したように言う。
「仕事始めただけでも驚きだっていうのに、文句ひとつ言わないどころか、続いてるとは。やっぱり地球が滅亡する日も近いのかも」
失礼なことを、とは思ったものの、私も最近までは、似たようなことを言っていたので、反論はできない。
「頑張ってるみたいだよ、コウ。ちょっと顔つきも変わったし」
「マジで?」
「マジで、マジで。だから私も暇だし、お昼にできるバイト探してる最中で」
ダボくんは「ふうん」と言いながら煙草を咥えた。
そして煙の行きつく先を探すように宙を仰ぎながら、
「俺、コウとは小学校からの付き合いだけど、あいつがろくでなしを卒業する日がくるなんて夢にも思わなかったよ」
「昔のコウってどんな感じだったの?」
「あのまんま。やんちゃで、馬鹿騒ぎが好きで、そのくせ、何でか女子にはモテて。ムカつくけど憎めないんだよなぁ」
私は笑う。
ダボくんはそんな私に視線を戻し、
「まぁ、コウはさ、悪いとこもあるけど、基本的には優しくていいやつだからさ」
「知ってる。で、私はコウのそういうところに救われてるの」
「ノロケかよ」
ダボくんは苦笑いだった。
「ダボくんもカノジョ作ればいいのに」
「俺はいいよ」
「どうして?」
「今はコウとマリアちゃんを見てるだけでお腹いっぱいだから」