徒花
「それって関係なくない?」


なのに、ダボくんはまた苦笑いする。

私は、よくわからなくて首をかしげた。



「好きな人とかは? いないの?」

「勘弁してよ。俺は自分のそういう話を語るのは苦手なんだ」


言われてみれば、今まで一度として、ダボくんの恋バナなんて聞いたことがなかった。



「まさか、ホモ?」

「それはない」


じゃあ、何?

と、聞こうかとも思ったけれど、やめといた。


ダボくんは、「それより」と言いながら、話を変えた。



「マリアちゃん、今暇してんでしょ?」

「え? あ、うん。何?」

「コウが働いてるとこ、見に行かない?」


その提案には驚いた。

確かに私もコウが働いてる姿を見たいとは思うけど、



「でもそれってやばくない?」

「いいじゃん、いいじゃん。物陰からこそっと見るだけだし、ばれやしないって」


ダボくんはイタズラを思い付いた少年みたいな顔をする。

こういうところはコウと似てると思う。


ダボくんは、いまいち乗り気じゃない私に、



「コウが真面目にやってるとこなんて、滅多に見れないっしょ? これは貴重だよ」


そんな言葉に背中を押された形の私は、「ちょっとだけだよ」と言いながらも、何だかんだで楽しみな気持ちが勝ってきた。



コウが働く工場は、車で30分くらいのところにある。

ダボくんは、コウのどんな姿を想像しているのか、終始にやにやしまくっていた。


少しだけ、後ろめたい気持ちの残る私なんかとは正反対だ。

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