徒花
一帯は、似たような工場がたくさん並んでいる通りだった。

コウの働く工場から少し離れたところに車を止め、私たちは角にある電柱に身を隠した。


思いっきり不審者みたいだし、私たちは明らかに怪しい。



「ねぇ、ほんとにこれって大丈夫なの? コウに見つかったりしたら絶対怒られるよ」

「大丈夫、大丈夫」


のん気なダボくんは、電柱から顔を覗かせ、「あ!」と声を上げたが、慌てて自分の口を押さえた。



「何?」

「コウがいたよ! あれ、あれ!」


声を潜めながらダボくんが指差す先を見る。



作業服で頭にタオルを巻いたコウが、ひたいに汗しながら、苦しそうな顔で重そうなものを運んでいた。

何だか胸が締め付けられる。


私はしばらく無言で、働くコウを見守っていた。


コウは重そうな荷物をいくつも運び続けている。

そんなコウのところに恰幅のいいおじさんが近付いてきた。



「おい、コウ。お前、さっさと終わらせろよ。仕事はそれだけじゃねぇんだぞ。チンタラやってんな」

「はいはい」

「『はい』は一回でいい」


コウの頭にゲンコツが。

驚く私と、噴き出しそうになるダボくん。



「お前、真面目にやらなきゃクビにするからな」

「いや、それ勘弁してよ、社長。嫁に怒られるから」

「ったく、お前ってやつは。頑張ってんのは認めるけど、まず敬語を覚えなきゃ仕事も教えねぇぞ」

「はいはい」

「だから『はい』は一回でいいって言ったろ」


またコウはゲンコツされていた。
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