徒花
「しっかし、お前のことは中学時代から知ってるけど、あの荒くれ者がまさか俺に『働かせてください』って頭下げるとは思わなかった」

「もういいじゃん、その話は。しつこいって」

「でも、お前、あれは俺じゃなくても驚くよ。どうせ2,3日で飽きるだろうと思ってたのに。結婚するんだっけ? コウを真面目にさせるほどの女ってのは、どんなもんかねぇ?」

「いいとこ言ったらキリがないけど、社長なんかには教えませーん」

「ほほう。じゃあ、向こうの箱も追加で運んどけ」

「はぁ?!」

「嫁と別居中の俺の前でノロケた罰だ。ほら、手が止まってるぞ。クビになってもいいんだな?」

「わかった。わーかったよ。運びます。運ばせてください、社長様」

「それでいい」


ダボくんは必死で声を堪えながらも、腹を抱え、「もう我慢できない」と言いながら、笑い転げていた。



真面目なんだか、不真面目なんだか。

でも、文句を言いながらも、コウは決して休まない。


今まで好き勝手に生きてきたコウだから、きっと腹が立つ場面だってたくさんあると思う。


けれど、我慢してるのは、私のため。

そう思うと、浮気するんじゃないかなんて疑っていた自分が心底嫌になった。



ひとしきり笑ったダボくんは、



「あいつ、もっと適当に働いてんのかと思ったけど、案外ちゃんとやってんだな」

「だね」


私は泣きそうになった。



「私、帰るよ」

「え? こんなにおもしろいのに、もっと見ないの?」

「ううん、帰る。帰って、コウのために美味しいもの作って待っててあげたいの」

「そっか」


ダボくんに「今日はありがとう」と言って、その場で別れた。


空を見上げる。

秋晴れのすがすがしい青が広がっていた。

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