徒花


帰宅して、私は疲れた体をソファに投げた。

ぼうっと天井を見上げながら、今日のことを思い起こす。



「……コウ、か」


残り香が、ふわりと香った気がして。

何だかなぁ、と、また私は苦笑い。


その時、バッグに入れていた携帯が着信のメロディーを響かせた。


手探りでそれを持ち上げ、ディスプレイを確認してみると、【てっちゃん】と表示されている。

私は通話ボタンを押すことなく、それを再びバッグに戻した。



そういえばコウは私に番号なんて聞いてこなかったなと、今更思ったけど、どうせまた会うだろうからいいやと、気にしなかった。



体を起して、広すぎるリビングを眺める。

自分が寂しいのかどうかは、もうよくわからなくて。


ただ、ひとりっきりで過ごす夜は、今もあまり好きじゃない。




私は立ち上がり、チェストの上に置いてあるパパとママの写った写真の前まできて、手を合わせた。




両親が死んで、もう10年だ。

私はすっかり成人して、なのにいつまで経ってもふらふらしたまま。


それでもまだ、自分が何をすればいいのかわからない。


私は、コウと付き合えば、ほんとに楽しくなるのだろうか。

何かが変わってくれるだろうか。



なんて、写真の中のふたりに問い掛けたところで、答えなんて返ってくるはずもないのだけれど。

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