徒花
コウが働き出して、一ヶ月。
初めての給料日。
夜、いつもの帰宅時間より一時間ほど過ぎた頃、帰ってきたコウと一緒に、少し高めのレストランに向かった。
コース料理を選べて、パンは食べ放題のところ。
そして午後8時からは、ピアノの生演奏もしてくれるらしい。
久しぶりに飲んだシャンパンは、本当に美味しかった。
「最近、ほとんど外食なんてしてなかったから、たまにはこういうのもいいよな」
「でしょ? ここね、すっごい評判いいんだって。ずっと前から調べてたんだ」
コウは厚切りの牛フィレ肉にナイフを入れる。
その所作はなめらかだった。
何だかんだ言っても、こういう端々に育ちのよさが滲み出ていると思う。
「仕事やってる感慨は?」
聞いてみたら、コウは少し考えるように宙を仰ぎながらも、
「あんまりねぇな。けど、もうオールで遊びまくれるほどの体力はなくなった。俺、密かにジジイになってんのかも」
「………」
「でもさ、今の方が、特に何があるってわけでもないけど、毎日それなりに楽しいし。昔は常に刺激を求めてたけど、そういうのはもう必要ないっつーか」
コウは口元を緩めた。
イタズラにではなく、柔らかい笑みで。
いつの間に、コウはこういう顔をするようになったんだろう。
いい意味でヤンチャっぽさが抜けて、ぐっと大人の男としての色香や精悍さが増したと思う。
人は変わるものだなと思った。
「ジジイでも、コウは今の方がかっこいいよ」
「なぁ、それって褒め言葉だよな?」
「もちろん」