徒花

悲哀



私の左手の薬指に、片時も外すことなくはめられた、コウとの揃いの指輪。

特に何の変化もない普通の毎日だけど、でも今はそれを幸せなことだと思える。



大切なものが増えることを、こんなにも嬉しく思えるなんて、知らなかった。



コウが仕事に行っている昼間に、私はたまに、短期のバイトをするようにした。

暇だからというのもあるけれど、コウが頑張ってくれているから、私も何かしていたかった。


でも、コウはよく、そんな私を心配する。


「変な虫が付きそうで嫌だ」とか、「セクハラされたらどうすんだ」とか。

私はその度に、「ありえない」と笑って受け流すが、コウは本気で言っているみたいだった。




そんな中、7月を迎えた。




カイくんがこっちに戻ってきた。

カイくんと久しぶりに会ったコウも、何だかんだで嬉しそうだった。


酒の一気飲み対決をしてみたり、たまに口論してみたり、とにかくコウが笑ってたから私も嬉しかった。

ふたりはやたらとテンションが高かった。



3人でご飯を食べに行って、その後、カイくんが「カラオケに行こう」と言った。



「駅前の店に後輩たちがいるらしいんだよ。乱入しようぜ」

「おー、それいいな」

「だろ? あいつら、絶対驚くよ」


コウとカイくんは肩を組んで笑っていた。

正直、私は疲れていて眠かったので、まだ付き合わされるのかと嫌になった気持ちもあったが、機嫌のいいコウに水を差すことはできないから。


私は黙ってその後に続いた。

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