徒花
「地元に戻ってたのは、病院に行くためだよ」

「病院? どっか悪いの?」

「俺はどこも悪くないけど。手術の付き添いとかね。色々あってさ」

「ふうん」

「でもまぁ、久々にコウに会えてよかったよ。あと、マリアちゃんにも」


そしてカイくんは、「結婚するんだってね」と、横目に聞いてきた。

まさか嫌味のひとつでも言われるのだろうと身構えた私だったが、でも意外にも、カイくんは、



「いいんじゃない? それならそれで」


少し驚いた。

私は笑う。



「珍しいこと言っちゃって。まさかカイくんがそんな風に言うなんて思わなかった」

「地元でちょっと色々ありすぎてね。おかげで大抵のことは笑って流せるくらい、心が広くなったよ。だから俺は今、楽しくて仕方がないんだ」

「何それ?」

「内緒」

「出たよ、秘密主義」


話していると、マイクを持ったコウが叫んだ。



「カイー! てめぇ、マリアに近付き過ぎだー!」


カイくんは爆笑する。

後輩くんたちも腹を抱えていた。


うるさい、けれどコウが楽しいならそれでいい。



「コウ! 次、あれ入れろよ、あれ! あの変な歌詞のやつ!」


カイくんは、そんなコウをさらに煽るが、



「誰か携帯鳴ってません?」

「あ、俺のだ」


ポケットからそれを取り出し、ディスプレイを確認したコウは、舌打ち混じりに「ちょっと電話してくる」と、部屋を出た。
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