徒花
歌う人がいなくなった曲だけが流れる。

コウが部屋を出ると、急にみんながクールダウンした。



「あー、マジで喉痛ぇー。歌い過ぎたー」

「休憩ー」

「つまみ、もうねぇじゃん。つか、ポテト届いてなくね?」


鼓膜が破れそうだった私も、やっと息をついた。

ちびちびとレモンサワーを飲みながら時刻を確認したら、まだ夜10時だった。


それでも普段は寝る準備をしている頃だ。



私があくびをしていたら、携帯片手のコウが戻ってきた。



「どしたー?」

「いや、電話、三澤先輩でさぁ。『今から来い』だって」

「マジで? うぜぇな。でも行くって言ったんだろ?」

「しょうがねぇだろ。あの先輩の誘いを断ったら、あとでめちゃくちゃうるせぇし」


コウは、そしてカイくんに何か耳打ちする。

ひそひそと、ふたりで何か話し合っているみたいだった。


そして「オッケー」とカイくんが言うのを聞いたコウは、



「マリア、俺ちょっと行ってくるから、ここで待ってろ」

「え?」

「あの先輩、話長いし、お前までいると余計、引き留められるから。で、どうしても俺が遅くなりそうだったらカイに送ってもらえばいいから」


カイくんも横でうなづきながら、



「そうした方がいいよ、マリアちゃん。三澤先輩といると、帰らせてもらえなくなるから」


眠かったし、早く帰りたいと思っていた。

だから私もそれに同意した。



「わかった」

「じゃあ、カイ。あとは頼んだぞ」


コウが上着を手に出て行く。

私は手をひらひらとさせながら、それを送り出した。
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