徒花
コウがいなくなったから、余計に場がシラケてしまった。

だからどうしたものかと思ったが、またあくびが出たから、私は席を立った。



「私、帰るよ。眠いし」

「コウ、待たなくていいの?」

「遅くなるんでしょ? 何時になるかわかんないだろうから、私、先に帰って寝る。送らなくていいから、カイくんたちはまだ歌ってなよ」

「そういうわけにはいかないって」

「でも、わざわざ私のこと送るなんて面倒でしょ。どうせ駅でタクシー拾えばすぐだし」

「だから、そういうわけにはいかないんだってば」


クッと笑ったカイくんは、すくっと立ち上がった。

私は思わず「え?」と返す。



「大人しくしてなきゃダメだよ、マリアちゃん」


瞬間、突き飛ばされた私は、ソファに倒れた。

何が起きたのかわからず、驚いて顔を上げたら、後輩くんたちもにやにやと笑っていた。



「ちょっ、カイくん? 何なの、これ?!」


だけど、後輩くんのうちのひとりが、突然、私の上に馬乗った。

残りのふたりも私を押さえる。


カイくんは、そんな私を見降ろして、



「ねぇ、まだ状況がわからない?」

「……何、言って……」

「コウが言ったんだよ。『折角カイが帰ってきたんだし、楽しめよ』、『俺は遅くなるから、その間、みんなでマリアをヤレばいい』って」

「……え?」

「優しい大親友は、俺のために、カノジョを貸してくれたわけだ。だからこれは、コウとの合意の上さ」


本当に、カイくんの言ってる意味がわからない。

体が恐怖に強張った。


これはコウが言い出したことなの?



「騒いで暴れたら、マリアちゃんが怪我するよ? そしたらお互いに嫌でしょ」

「……嘘、でしょ……?」

「嘘じゃないよ。そんなに信じられないなら、コウに電話してみる?」
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