徒花
引力
あれから2日経った、夜。
クリーニングに出していた、コウから借りていた上着を受け取り、そのまま、いつものショットバーのドアを開けた。
馴染みのバーテンは私に気付き、
「いらっしゃい。早いですね。いつものでいいです?」
「ううん、今日は飲みに来たわけじゃなくて」
「え?」
「これ、言付かってほしいんだけど」
言って、上着の入った紙袋を差し出す。
「コウって人、わかる? いつもいる、あの、チャラチャラしたグループの」
「あぁ、この前、声掛けられてましたね」
クスリとバーテンは笑った。
確かに、この人と話してる時だったけど。
「余計なことは言わなくていいから。とにかくその人が来たらこれ渡してほしいの」
「自分で渡せばいいじゃないですか。それとも、あれから何かありました?」
「うるさいわねぇ。常連客の頼みくらい、黙って聞きなさいよ」
「はいはい。すぐそうやって怒るんだから」
馬鹿にしたような態度のバーテンに紙袋を押し付ける。
バーテンは諦めたように肩をすくめ、
「伝言か何かあります?」
「ないよ。じゃあ、そういうことで、よろしく」
きびすを返す私の背に、バーテンは「また来てくださいねー」と言う。
まったく、客に対する態度じゃない。
私は振り返ってべーっと舌を出し、手をひらひらとさせて、店を出た。