徒花
カイくんは自らの携帯を取り出し、ディスプレイにコウの番号を表示させて、「ほら」と私に見せつけた。


瞬間、私は考えるより先にそれを薙ぎ払った。

ガシャン、と携帯が床を打ち、



「てめぇ、液晶割れただろ、このクソアマが!」


数秒遅れたタイミングで、私はガッと拳で打たれた。

カイくんは、私を殴った手をぷらぷらとさせ、



「ごめん、ごめん。思わず殴っちゃった。痛かったでしょ? だから『大人しくしてなきゃダメだ』って言ったのに」


だからってカイくんは、悪びれてもいない顔。



「……何で、こんなこと……」

「はぁ? 少なくとも昔のコウにとっては普通のことだったけど」


レイプが、『普通』?



「あいつ今日、酒飲み過ぎてテンション高くなって、昔のこと思い出したんじゃね?」

「……そん、な……」

「似合わない仕事なんかしてる所為で、ストレスだって溜まってたんだろ。あいつさっき、居酒屋でマリアちゃんがトイレに行ってる時に、色々と愚痴ってたもんな」

「………」

「だから、『面白いことしたい』ってさ」


嘘だと思いたかった。

冗談だよと、今言ってくれればまだ、笑って流せたかもしれないのに、



「さっさと始めようぜ」


カイくんが言った瞬間、私の上に馬乗っている男の手で、口を塞がれた。

そしてシャツをたくし上げられる。


痛みの中での抵抗なんてほとんど意味をなさない。


元より男の力に勝てるはずなんてないから。

誰かの手によってスカートの中があらわになった瞬間、私は固く目を瞑った。




コウなんて大嫌いだ。
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