徒花
コウの記憶が塗り潰されて、顔さえよく思い出せない。

異物に体内を貫かれ、気持ちの悪い息遣いが行為の醜さを物語る。


これ以上、殴られることへと恐怖心の方が勝った私には、もう抵抗する気は失せていた。


心も体も擦り切れそうだ。

千切れてしまいそうなほどの痛みが感情を削ぎ落とす。




まるでデクノボウだ。

ダッチワイフよりずっと価値がない、ただの穴。


コウに愛されていると、コウを信じようと、思った私が馬鹿だった。




「泣かないんだ? ってことは、マリアちゃんもこの状況を楽しんでるってこと?」

「………」

「そりゃそうだよね。男好きって顔してるし。キャバやってたんでしょ? 何よりあのコウと付き合ってるんだもんね」

「………」

「類は友を呼ぶってね。あんな女好きといるくらいだから、そりゃあ、マリアちゃんだって同じだよね」


カイくんは反対側のソファで私が犯される様子を傍観しながら、笑っていた。



こんなことを言う人だとは思わなかった。

私は今までそんな風に思われていたの?


私はカイくんを睨み付ける。



「おいおい、何で睨むんだよ? 俺悪いこと言った? 悪いのは俺じゃなくてコウだろ」


歪んだ目。



「コウは所詮、そんなやつさ。それでも結婚するんだろ? いいじゃん、いいじゃん。そういう夫婦の形もありだ」

「………」

「そんで、たまにこうやって乱交パーティでも開いてくれりゃ、最高の夫婦さ」


耳から入った言葉は脳まで届かない。

私の思考は完全にその機能を失っているらしい。


もう痛みさえも感じない。


我慢すればいいだけだ。

ずっと私はそうしてきたのだから。

< 131 / 286 >

この作品をシェア

pagetop