徒花
私はコウに向かって吐き捨てる。

コウはガッと車のボディーに拳をぶつけた。


それでも、あの日の残像に取り憑かれたままの私は、気が狂ってしまいそうで。



「大体、結婚だなんて、コウなんかとできるわけないじゃない! 私はコウが好き勝手にしていい所有物じゃない!」


叫び散らし、左手の薬指にはめていた指輪を、コウに向かって投げつけた。

コウは目を丸くする。



「コウのこと、少しでも信じて好きになった私が馬鹿だった! マジで気持ち悪い!」

「………」

「大嫌い! 顔も見たくない! もう二度と私の前に現れないで!」


言い切った瞬間だった。



「わかった。もういいわ」


コウはおぞましいほど冷たい瞳を私に向ける。

それでも私は負けじと睨み返した。



「俺もてめぇなんかの顔、二度と見たくねぇわ。くだらねぇ。こんな女なら付き合うんじゃなかった」


どうして私がそんな言い方をされなきゃならないの?

まるで私の方が悪いとでも言いたげな台詞に、突き刺される。


私の世界はぐらりと揺れた。



「部屋にあるもんは全部捨ててくれていいから。俺もお前のもん全部捨てるし、それでいいだろ」


言い捨て、コウは車に乗り込んだ。




これで本当に終わったんだ。

望んでいたことだったのに、いざ現実になると、急に体から力が抜けた。


自分からコウを捨てたはずなのに、なのにこの言いようのない喪失感は何なのか。



私は、必死で崩れ落ちそうな自分自身を保った。

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