徒花
そしてそれは、そんな中で起きた。
おばあちゃんが死んだのだ。
風邪をこじらせ、容体が悪化したおばあちゃんは、だけども私にだけは知らせないようにと、うわ言のように繰り返していたそうだ。
『絶対によくなるから』と。
『こんな姿を見せたらマリアちゃんに余計な心配をさせてしまうから』と。
おばあちゃんは、最期まで私のことを考えながら、息を引き取った。
私はおばあちゃんに、ウエディングドレス姿を見せることもできなかった。
それどころか、コウの所為でレイプまでされてしまったのに。
なのに、こんな私の身を案じて、ひとりで死んだのだ。
ごめんなさいと何度も言った。
私さえ気付けていればと、何度も何度も後悔した。
そして私には、誰もいなくなった。
「信じられない!」
親族会で、叔父たちが叫ぶ。
「俺たちを差し置いて、あの土地のほとんどをマリアに譲る?!」
叔父たちが怒り狂う様を、私はぼうっと眺めていた。
おばあちゃんは財産のほとんどを私に相続させると遺言状に書いていたらしい。
もちろん叔父たちにはそれぞれ法定相続分は残しているから、それは正当な書状で、訴えることもできないらしい。
けれど、おばあちゃんという唯一の心の拠りどころを失った私には、どうだっていいことだった。
「お前がばあさんを騙して遺言を書かせたのか?! ふざけやがって! これだからあの女の娘は!」
「そもそも、兄さんが悪いんだ! あんな、どこの馬の骨ともわからない女と無理やり結婚して、さっさとおっ死んで!」
「何で俺たちじゃないんだ! どうかしてる! 可哀想なのはマリアじゃない! 俺たちだ!」