徒花


ふわふわとしている世界を彷徨い歩いていた私が彼と再会したのは、ほんの些細な偶然が重なったのだと思う。



「マリア?!」


聞き慣れた声に振り向くと、小走りにこちらに近付いてくる男――てっちゃんの腕にはタトゥーが増えていた。

顔より先に、そちらの方に目が行った。


だから挨拶より先に笑ってしまったのだと思う。



「すげぇ久々だよな」

「だね。でもてっちゃんは相変わらずっぽいじゃん」

「まぁ、そこそこだけどな」


いつもと同じ笑み。

てっちゃんはずっと変わらないでいてくれる、唯一の人。



「それよりマリア、こんなとこで何やってんだ?」

「何もやってないよ。白線の上を歩き続けてたら、ここに来てたの」

「そうか。じゃあ、俺のとこに繋がってる白線だったんだな」

「そうかもしれないね」


言葉は簡単に口から洩れた。

てっちゃんだけが、私の世界をクリアにしてくれる気がしたから。



「じゃあ、暇してんならうち来るか?」


てっちゃんは笑っていた。

だから私も笑った。


笑いながら、「そうだね」と言った。



この手に引かれながら、ここじゃないどこかに連れて行ってほしいと思った。

いっそてっちゃんの世界に閉じ込めてくれればとさえ願う。



だってもう疲れ過ぎたから。

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