徒花
てっちゃんはごちゃごちゃしたテーブルの上を探り、別れた時に私が返したはずのネックレスを取った。

そしてそれを私の首元へと嵌める。



「マリア、おかえり」


てっちゃんは笑っていた。



「うん、やっぱ似合うよな。まぁ、俺が選んだんだから当然だけど」

「捨ててなかったの?」

「だってマリアは絶対に俺のところに戻ってくるって思ってたから」


徐々に頭痛が消えていく。

体が弛緩して、力が抜けていく。


次第に思考することさえも億劫になってきた。



「ちょっと楽になってきたかも」


と、いうか、きっと隣にいるのがてっちゃんだからだろうと思う。


結局私にはてっちゃんが一番似合いなのだ。

ここから飛び出そうとしたからこそ、悪いことばかりが起こったのかもしれない。



「ねぇ、私ずっとここにいてもいい?」

「ダメとか俺が言うと思うか? 別に他に誰か来るわけでもねぇんだし、いたいだけいればいいから」


どうやら本当に、他の女の子たちとも手を切ったらしい。



「つか、ここで暮らせばいい。その方がもっと一緒にいられるし」

「それもいいかもね」


まるで体が宙に浮いているみたいにふわふわとした感じだった。

頭痛はすっかり消え去って、あれ以来初めてゆっくり眠れそうだ。


てっちゃんは私を抱き締めた。



「俺のとこにいたら楽しいことばっかだぞ?」


前にも誰かに似たようなことを言われた気がするけれど、もうよく思い出せないし、どうだってよかった。

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