徒花
てっちゃんの言葉は本当だった。
てっちゃんの部屋で、気が済むまで何時間でも抱き合って過ごした。
世界から切り取られたこの一室で過ごすことだけが、私の安らぎになっていた。
今ではすべてはおぼろげな残像だ。
愛しい誰かがいたような気がするが、そんなことはもう思い出せなかった。
てっちゃんといることだけが、私からリアルを取り除いてくれる。
家に帰ることはなくなり、電源を切りっ放しにしている携帯はすでにガラクタのように転がっていた。
私にはてっちゃんがいればそれでいい。
他の何も望みはしない。
「ずっとこうなればいいと思ってた。マリアを閉じ込めておきたかった」
てっちゃんが触れたネックレスが揺れる。
毎日のように雨が降る。
窓を打つ雨音が、一層この部屋を外界から隔離させる。
それでも私は、それこそが幸せなのだと感じていた。
「私はどこにも行かないよ。ずっとここで、てっちゃんといる」
「そうか」
だって外の世界は見たくもない現実で溢れているから。
だからこの曖昧な空間に依存し続けていた。
もうどこにも行きたくなんてない。