徒花
白黒
窓を閉め切っていても、蝉の声がうるさい。
てっちゃんの部屋の壊れかけたエアコンから出てくる風が、生温かい。
「あちぃな。どっか行くか?」
「私平気だよ」
「嘘だろ? 俺汗やべぇよ。外の方が涼しいんじゃね?」
てっちゃんは私に着替えるようにと促した。
ほとんどこの部屋に閉じこもって過ごしているといっても、別に軟禁されているわけではないので、たまには一緒に出掛けることだってある。
私はいつも億劫だという思いを振り払い、なるべくてっちゃんの望むことには付き合った。
「クラブでも行こうぜ。多分今頃だと、ケンとかよっしーとかいるはずだし」
着替え終わり、髪の毛を整えている私に、てっちゃんは携帯をいじりながら言った。
「あいつらも久々にマリアに会いたがってたぜ」
「そういえば最後に会ったのって確か、半年以上前になるもんね」
「だよな。あいつら、相変わらずだけどよ」
てっちゃんは鍵を片手に靴を履く。
私も引き出しから頭痛薬と胃薬を取り、水もなしに飲み込んでから、後に続いた。
出掛ける時はこれがないと辛くなるから。
「しっかし夜なのに何でこうあちぃんだよ? 温暖化か?」
「さぁ? 夏なんてこんなもんじゃないの?」
「俺夏とかほんとダメ。むしろシベリア行きてぇよー」
てっちゃんは街中で大声で叫ぶ。
人々が振り返る中で、まるで酔っ払いみたいだと思った。
でも私は笑っていた。
てっちゃんといれば楽しいことばかりだ。
笑顔を貼り付けずとも、何を気にすることもなく、自然体でいられるから。