徒花
クラブに来るのも久しぶりだった。
テクノ系の音楽がガンガン響き、狭い箱の中でぎゅうぎゅう詰めになった人たちが揺れている。
踊る姿ってどうしてこう、滑稽に見えるのだろう。
てっちゃんは私にアルコールを手渡してくれた。
それを受け取り、私は一番端の壁に寄りかかりながら、知り合いと挨拶を交わすてっちゃんを眺めていた。
と、その時、
「あ、テツ先輩! ちゃっす!」
私は目を見開いた。
軽く会釈するその男から流れた視線は、隣にいる私に移る。
だけどその顔が崩れることはない。
「よー、カイ。元気だったか?」
「先輩、女連れっすか」
「マリアっていうんだよ。昔付き合ってたんだけど、またヨリ戻したんだ、俺ら」
「へぇ」
白々しいほど普通の顔で、カイくんは蛇に似た目を細めた。
だから私も棒読みで「どうも」とだけ言った。
無駄に顔が広いてっちゃんといれば、遅かれ早かれ、こうなる日が来るだろうとは思っていたから。
「可愛いだろ。でも手出したらダメだぞ」
「興味ないっすよ。俺こういうガリガリなのは勃たないっすもん」
「マジかよ。カイってデブ専か?!」
てっちゃんはギャハハハと笑った。
どうだってよかった。
まるで地鳴りみたいな重低音に吸い込まれそうな感覚だ。
「それよりテツ先輩。あっちでカズとかが先輩のこと探してたましたよ」
「あ、マジで?」