徒花
てっちゃんは指差された方を一瞥し、私の耳元で「ちょっと待ってて」と言い、向こうに行ってしまった。


この男の魂胆くらいはわかるつもりだ。

私はカイくんを睨む。



「鞍替え? いや、元サヤってやつか」


カイくんは私の横で、同じように壁に寄り掛かり、煙草を咥える。

体よくてっちゃんを追い払ったところで、今更この人と話すことなど何もないというのに。



「あいつとは別れたって聞いたけど。どうして? あんなに仲よかったのに」


白々しい言い方をしながら、カイくんは白灰色の混じったため息を吐き、



「つまんないよねぇ。折角、毎日みんなで楽しくしてたっていうのにさ」

「………」

「コウだってマリアちゃんと別れてから、荒れちゃってねぇ。まぁ、そりゃあ、理由がわからないまま、突然別れを告げられたら、ねぇ?」


吐き出された煙の匂いの甘さに頭がクラクラとする。

響く重低音に、思考まで揺らされる。


何を言われているのかわからない。



「誰のこと言ってんの?」


カイくんは蛇のように細めた瞳をこちらに流し、



「まぁ、“そんなもん”に依存してるやつに何を聞いても無駄か」

「は?」

「とぼけてんの? それともラリってんの?」


クッと喉の奥を鳴らし、カイくんは笑う。



「マリアちゃんは単に、コウよりクスリがよかったってことだもんねぇ?」
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