徒花
「は?」


今度問い返した私の顔は強張っていた。



「まさかわかんないで飲んでるってか? 笑わせんなよ、冗談だろ。どうせ今頃テツ先輩だってそこで、新しいのを仕入れてるさ」


どうしてこの人は、いつも私の世界を壊そうとするのだろう。


“それ”が風邪薬でもなければ、頭痛薬でも胃薬でもないことはもうわかっていた。

けれどわかりながらも、私は“それ”を求めていた。



「マリアちゃんもそのうち脳みそまで腐って人間じゃなくなるだろうね」

「そうなんだ。じゃあ、それでいいよ。何の問題もないから」


私の言葉にカイくんは、



「気持ち悪い女だ」


と、ぼそりと吐き捨てた。


これだから外になんて出たくなかったのに。

ずっとあの部屋の中にいられるだけでいいのに。



「マリア!」


その声に振り向くと、小走りに駆け寄ってきたてっちゃんは、



「悪ぃ、ちょっと話し込んでたら長くなった」


カイくんはすっとどこかにいなくなった。

てっちゃんはきょろきょろとして、



「あれ? カイは? さっきマリアと話してたように見えたけど」

「気の所為じゃないの? 別に知り合いでもないのに、話すことなんて何もないでしょ」

「そうか。だよな」


肩が抱かれる。

もしもカイくんが言うように、このまま脳みそまで腐ったとしたら、今ある余計な思考も消えてくれるのにね。
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