徒花
ふたりで歩き出した時だった。

視線に気づいて顔を向けたら、沙希がこちらをじっと睨んでいた。


だから「沙希!」と声を掛けたのに、つかつかと歩み寄ってきた沙希は、パシッ、と私の頬を張った。


何が起きたのかわからなかった。

どうして私が沙希に殴られなきゃならないの?



「あんた、マジ最低」

「……え?」

「コウって人とのこと、応援してたのに! なのに、これはどういうことなの?! 何でてっちゃんと戻ってんの?!」


沙希まで、一体誰のことを言っているんだろう。

『応援してた』って、何のこと?



「おい、沙希! やめろって! お前ら、友達だろ?! 何でこんなことすんだよ!」


さすがになだめようとしてくれたてっちゃんだったが、沙希はそれさえ睨み、



「てっちゃんだって、馬鹿じゃん! あたしはこんなことのために今までずっと相談に乗ってたわけじゃないんだからね! 何でわかんないのよ!」


叫び散らし、涙目の沙希は走り去った。

私は首を傾げながらその背を見送る。


不意に思い出した人の顔は、だけどもやっぱり真っ黒に塗り潰されていた。



「ねぇ、もう帰ろうよ。私疲れたし」

「おう。俺もここにずっといたら耳が痛ぇもんな」


私がてっちゃんの腕に絡まった。



街は学生らしき若者で溢れていた。

それを見て、そういえばもう夏休みに入ったのかと、今更気付いた。


けれど、だからどうしたということもない。


ただ少し、クスリの効力が先ほどよりも弱まっていることが不安だった。

最近、同じ量を飲んでも以前ほどは持続してくれなくなっている。

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