徒花


てっちゃんの部屋に戻り、一目散にいつもの引き出しに手を掛けたが、



「マリア、飲みすぎだよ。出掛ける前に飲んでから、ちょっとしか経ってねぇじゃん。あんまやってっと、中毒起こして泡吹いて死ぬぞ?」


別に死んだっていいのに。

なのに私は制するてっちゃんの手だけは払えなかった。



「あと、一度に2錠も飲むな。酒と一緒だよ。ほどほどにしとかねぇと遊びの域を超えて、止められなくなる」


最初に勧めたのはてっちゃんのくせに。

私は呆れながらも、言われた通りに引き出しを閉めた。


今度はてっちゃんの目を盗んで自分で買いに行こうかとすら考えていた。


頭の中にはそれしかなかった。

だってクスリがなきゃ私は、忌わしい記憶ばかりに支配されるから。



「ほら、そう怒るなよ」


てっちゃんは笑う。



「あ、じゃあ気分転換にいつもの映画でも観ようぜ。俺そろそろ台詞全部暗記しそうな勢いだけどな」


笑っているてっちゃんを見つめた。


いつからこんなにもてっちゃんは、濁った瞳で笑うようになったのだろう。

だけど昔のてっちゃんをもう思い出せないから、ずっとこうだったのかもしれないと思い直した。



万年床に腰を下ろす私の横に、てっちゃんも座る。



オープニング画面になって、古い洋楽が流れて、どこまでも続く線路に機関車が走っている。

ぼうっとそれを眺めていると、画面が急に横たわった。


押し倒されたのは私だった。


てっちゃんの手が私の体を滑る。

目を瞑ると、てっちゃんは私の耳元に、「愛してる」、「どこにも行くな」と言葉を寄せた。



同じことを言っていた人は、誰だったか。

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