徒花


毎日はダラダラと過ぎていった。


いや、そもそも私にはもう時間の感覚というものさえも曖昧だ。

だから一日なのか、それとも一年なのか、十年なのか、とにかくここに来てからどれくらいが経ったのかはわからなかった。



まぁ、どれだけ経っていようと同じだけれど。



てっちゃんとは飽きることなく一緒にいる。

私は相変わらず、隔離されたようなこの空間から出ることを拒んでいた。



カイくんのこととか、
沙希のこととか、
親戚たちのこととか、

顔も思い出せない人のことだとか。


外の世界はそういう煩わしさに満ちているから。



ここは私にとって、唯一地上にある楽園とも呼べる場所だ。

見たくない現実を遮断していれば、そのうち私の中の記憶のように、すべてが消え失せてくれるのではないかと思った。


今では何もかもがモノクロームの残像でしかない。



「ねぇ、てっちゃん。たまには掃除しなよ。そこに変な虫がいるよ」

「はぁ?」

「ほら、そこだってば。何で見えないの? うわっ、近付いてきた!」


私は顔をしかめててっちゃんの後ろに逃げた。


だけどてっちゃんはさしてそれを気に留める素振りさえ見せず、ずっと天井の一点を眺めていた。

時々にやにや笑ってて、それがすごく気持ち悪い。



どうやらてっちゃんはおかしくなってしまったらしい。



私は追い掛けてくる変な虫から逃げ回っていた。

すると段々とそれさえ楽しくなってきた。


裸で部屋中を走り回る私よりずっと、天井の一点を眺めながら微動だにしないてっちゃんの方が変だと思う。

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