徒花
懐かしいぬくもりと声。
なのにそれが誰か思い出せない。
まるで嵐が去ったように誰ひとりいなくなった部屋で、男は私を向き直らせた。
「マリア、俺だよ。わかるか?」
わかりたくなかった。
気付きたくもなかったのに。
「……コウ?」
私の声は、か細く震えていた。
どうしてここにいるのかとか、何をやっているのかとか、聞きたいことは山ほどあったはずなのに、なのに何ひとつ言葉にはならなかった。
頭の中はてっちゃんのことだけだった。
「てっちゃんを返してよ! やめて、てっちゃんを殺さないで!」
私はコウの手を振り払った。
コウは振り払われた自分の右手を見つめて一瞬ひどく悲しそうな顔をしたが、
「マリア、頼むから落ち着いてくれ。テツ先輩のことは大丈夫だから。それより今はお前のことだよ」
「………」
「すげぇ探した。死ぬほど心配した。生きてるだけでいいと思った」
コウはそっと私を抱き締めた。
ガリガリに痩せ細ってしまった私の体を、壊れるんじゃないかと思うほど強く、抱き締める。
押し込めていたはずの記憶が蘇る。
「俺がいるから。これからはずっと傍にいる。だからもう苦しまなくていい。全部、夢だったんだ。悪い夢だったんだよ」
私の脳はまるでパンクしてしまったみたいに、ショートして、その機能を失った。
力の入らなくなった体がコウによって支えられる。
夢と現実の境界線にいるみたいで気持ちが悪かった。
なのにそれが誰か思い出せない。
まるで嵐が去ったように誰ひとりいなくなった部屋で、男は私を向き直らせた。
「マリア、俺だよ。わかるか?」
わかりたくなかった。
気付きたくもなかったのに。
「……コウ?」
私の声は、か細く震えていた。
どうしてここにいるのかとか、何をやっているのかとか、聞きたいことは山ほどあったはずなのに、なのに何ひとつ言葉にはならなかった。
頭の中はてっちゃんのことだけだった。
「てっちゃんを返してよ! やめて、てっちゃんを殺さないで!」
私はコウの手を振り払った。
コウは振り払われた自分の右手を見つめて一瞬ひどく悲しそうな顔をしたが、
「マリア、頼むから落ち着いてくれ。テツ先輩のことは大丈夫だから。それより今はお前のことだよ」
「………」
「すげぇ探した。死ぬほど心配した。生きてるだけでいいと思った」
コウはそっと私を抱き締めた。
ガリガリに痩せ細ってしまった私の体を、壊れるんじゃないかと思うほど強く、抱き締める。
押し込めていたはずの記憶が蘇る。
「俺がいるから。これからはずっと傍にいる。だからもう苦しまなくていい。全部、夢だったんだ。悪い夢だったんだよ」
私の脳はまるでパンクしてしまったみたいに、ショートして、その機能を失った。
力の入らなくなった体がコウによって支えられる。
夢と現実の境界線にいるみたいで気持ちが悪かった。