徒花


マンションの10階。

最上階の、一番左が、私の部屋。



「お前、ほんとにここに住んでんの?」


部屋に入ったコウの開口一番がそれ。



「見ればわかるでしょ」

「ひとり暮らしだろ? 広すぎじゃね?」

「だね。広いよね。最初はそれがいいと思って借りたんだけど、持て余しちゃって」

「へぇ」

「適当に座ってくつろいでてよ」


私は腕まくりしてキッチンに立った。

だけどコウは、ソファに座るでもなく、部屋をぐるりと見渡して、



「あの写真のふたりって?」

「うちの両親」

「親? 親の写真なんか飾るか、普通」

「死んだからね」

「え?」

「あ、別に気にしないでね。10年も前のことだし、今更悲しいとかじゃないから」


言ったのに、コウは物憂い顔を私に向ける。



「生きてたらよかったと思う?」

「え? そりゃあ、思うでしょ」

「ふうん。やっぱ普通はそうなのか」

「何?」

「いや、別に。俺は親なんてさっさと死んでくれって思ってる側の人間だから」


あなたは両親が嫌いなの?

とは、聞くべきではないと思った。


私は「そっか」としか返さなかった。
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