徒花
てっちゃんの部屋から連れ出されて、一体どれくらいが過ぎたのだろうか。
涙は涸れ果ててしまったらしい。
かすれた声は発することさえ苦痛だった。
クスリは抜けたのか、体にはひどい倦怠感だけが残っていた。
「マリア、プリン食うか? お前が好きなやつ。いっぱいあるよ」
「………」
「口開けてみ? ちょっとでいいよ。飲み込むだけでいいから、食ってみろ」
もはや抵抗する気力もなかった。
今や一事が万事、コウの言葉通りに、されるがままだ。
床に横たわったまま、口を開けると、冷えたプリンが喉を通った。
「すげぇじゃん。今日は食えてる」
コウは笑っていた。
いい加減、嫌にならないのだろうかと思う。
どうしてこんなままごとみたいなことに付き合ってくれるのかと。
コウの考えていることがわからなかった。
何をしても、何を言っても怒らない。
それどころか、飽きもせずに私の傍に居続ける。
だけどそれを問えるほど、私の頭はまだ上手く動いてはくれない。
「これ全部食えるようになったら、ちょっとだけでも外に出ようか。どっか連れてってやるよ。どこがいい?」
「………」
「あ、海とかいいよな。昼間はあちぃけど、夕方だったら歩けるし」
コウはいつも人形と化したような私に語り続ける。
うんともすんとも言わない私に、それでも笑い掛け続ける。
だから心が痛かった。