徒花


てっちゃんの部屋から連れ出されて、一体どれくらいが過ぎたのだろうか。


涙は涸れ果ててしまったらしい。

かすれた声は発することさえ苦痛だった。



クスリは抜けたのか、体にはひどい倦怠感だけが残っていた。



「マリア、プリン食うか? お前が好きなやつ。いっぱいあるよ」

「………」

「口開けてみ? ちょっとでいいよ。飲み込むだけでいいから、食ってみろ」


もはや抵抗する気力もなかった。


今や一事が万事、コウの言葉通りに、されるがままだ。

床に横たわったまま、口を開けると、冷えたプリンが喉を通った。



「すげぇじゃん。今日は食えてる」


コウは笑っていた。



いい加減、嫌にならないのだろうかと思う。

どうしてこんなままごとみたいなことに付き合ってくれるのかと。


コウの考えていることがわからなかった。


何をしても、何を言っても怒らない。

それどころか、飽きもせずに私の傍に居続ける。



だけどそれを問えるほど、私の頭はまだ上手く動いてはくれない。



「これ全部食えるようになったら、ちょっとだけでも外に出ようか。どっか連れてってやるよ。どこがいい?」

「………」

「あ、海とかいいよな。昼間はあちぃけど、夕方だったら歩けるし」


コウはいつも人形と化したような私に語り続ける。

うんともすんとも言わない私に、それでも笑い掛け続ける。


だから心が痛かった。

< 161 / 286 >

この作品をシェア

pagetop