徒花


クスリが抜けて、物が食べられるようになると、今度は異常なまでの空腹感に襲われた。

冷蔵庫の中にあるものは片っ端から手をつけ、満足すると、そこで力尽きるように眠ることもしばしだった。


でも気付くといつも私はベッドまで運ばれていた。


コウはそんなことにさえ何も言わない。

何も言わず、起きた私にまた、他愛ないことばかりを語り掛ける。



今の私は犬や猫と変わりないのかもしれない。



それでも、そんな日々も数日を過ぎると、コウは私を制するようになった。

意図的に、冷蔵庫の中身が減らされていることには気付いていたけれど。



「あんま無茶して食うなよ。下手に食ったり吐いたりしてたら過食症とかになるから」

「………」

「な? 時間決めようぜ。そんで一緒に食おう?」


私はこくりと頷くことしかできなかった。


コウの言葉に従っていることが楽だったから。

今はまだ、何かを思考するほどの余力は生まれない。


そこがどこであろうと、流されて生きれば面倒なことを考えずに済むのだと、もう何度となく経験していた。


もはや救われたいなどという希望はなかった。

今はどこでもいいから外の雑音が届かない場所で静かに過ごしていたかった。




だらんと伸ばした腕が重い。




窓辺から注ぐ陽射しに目を細めた。

四角く切り取られた窓枠を、すずめが横切る。


ぼうっとそれを眺めていると、脈絡なくコウに抱き寄せられた。


吐き出した吐息もまた重かった。

どうしてこうも胸が軋むかのかと思う。

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