徒花
意志とは別に、体は次第に回復していっているらしい。
「ちょっとだけでも散歩するか。外の空気吸ったら気分転換になるだろ?」
嫌だと言いたかったけれど、でも相変わらず喋ることが億劫だったので、私はコウのその言葉にまたただ頷いた。
一体どれくらいぶりにまともに外気に触れたのか。
夕方とはいえ肌をじりじりと焼く陽射しが、忘れかけていた“リアル”を呼び起こす。
そしてそれはマンションの外に出た時だった。
はっとした。
どうして今までこんな大事なことを、と思った。
「マリア?!」
制するコウの声も耳には届かない。
私は路地裏へと足を踏み出していた。
ボスのことが心配だった。
きょろきょろしながら走った。
なのに、いつもボスがいる場所に、その姿はなかった。
「マリア、待てよ! どこ行くんだよ! おい!」
簡単に追い付いたコウは私を引き留める。
気付けば涙が溢れていた。
私はとうとうその場にうずくまる。
「マリア、どうしたんだよ? 何で泣いてんだ? 何を探してた?」
私と同じようにその場にしゃがみ、目線の高さを合わせて問うてくるコウに、
「ボスが……」
悲哀の混じる声が漏れた。
コウはそんな私に一瞬ひどく驚いたような顔をしながらも、「ボス?」とまた反復したように問うてきた。